あっつい日が続いています。
みなさん、ご機嫌いかがでしょうか。
こんなときこそ、怖い話です。
今回は、体感温度が-5℃になるような実話怪談をお届けします。
これは、私の母が体験した話です。
突然頭痛に襲われた母は、くも膜下出血と判断され入院することになりました。
搬送されたのは、市内郊外にある新しい総合病院。
幸い、早期発見により、意識がある状態で入院したのですが、
開頭手術をするわけにもいかず、
頭痛薬を飲んで出血が止まるまでベッドで寝かされることになったのです。
“それ”を最初に見たのは、入院初日の夜。
母は深夜に目が覚めました。
時刻は午前2時すぎ。
病院の消灯時間が普段の生活より早かったので、
早めに目が覚めてしまったようです。
尿意をおぼえた母は、4人部屋である病室を抜け、
廊下にあるトイレへ向かおうとしました。
4人部屋ですので、それぞれのベッドの周囲にカーテンがかけられており、
母はそのカーテンを開けて部屋を見て、「ギョッ」としました。
部屋の中央、カーテンに囲まれて通路のようになっている場所に、
移動式のベッドが二台、部屋の隙間を埋めるように置いてありました。
しかもベッドには二台とも人が仰向けで寝ており、
布団がかけられ、さらに顔には白い布がかっています。
死体!?
最初そう思ったそうです。
夜中に亡くなった患者さんを自分たちの病室に置いているのではないか、と。
しかし、それは違いました。
顔にかかっている布の下から呼吸が聞こえ、
布もかすかに上下していたからです。
なんだ、と思って母が移動式ベッドの柵にふれると、
それは、今まで冷蔵庫に入れられていたと思えるほど、
ヒンヤリ冷えていたそうです。
なんだか気味が悪い。
と思った母は、二台並べられているベッドの横をそそくさと抜け、
ナースステーションに事情を聞きに行くことにしました。
「すみませーん」
カウンターの外から奥に声をかけてみます。
「すみませーん」
何度も呼びかけてみましたが、誰も出てきません。
静寂。
煌々と灯りがついていながら無人のナースステーション。
続く静寂が後押しとなって、おぞましい光景に思えてきた母は、
その場を立ち去り、トイレをすませ、またナースステーションへ。
しかし、相変わらず、誰もいません。
自分の病室に戻ると、やはり二台の移動式ベッドが置いてあり、
その上には誰かが横たわっています。
恐怖を感じた母は、その脇を通って、自分のベッドに戻り寝たそうです。
翌朝。
検温にきた看護師さんに、昨夜見たことを聞いたそうです。
移動式ベッドのこと。
誰もいないナースステーションのこと。
看護師さんは「そんなはずはないはずですよ」と話を否定しました。
きっと、怖い夢を見たのだ。
母は安心しました。
その夜、再び母は深夜に目が覚めました。
時刻を見ると、午前3時近く。
昨日の夢もこんな感じだったと思い、自分のベッドのカーテンを開くと、
そこには二台の移動式ベッド、上には誰かが仰向けに寝ていました。
あわてて廊下に出ると、ナースステーションは無人。
呼びかけても反応なし。
すべてが昨日と同じだったそうです。
「・・・という夢を見たのよ」
と、母からこの話を聞かされたのは、退院して数日経ってからでした。
「超怖い夢!二日つづけて見るなんてヤバイね!」
と茶化すと、母はまじめな顔で言いました。
「毎晩よ。35日間ずっと」
病院が建っている場所はもともと畑で、謂れがある土地ではありません。
しかし、ただの夢と片付けられない何かがある。
因果関係が明らかにならないまま、関係者の心に澱だけを残している話です。